
「宿泊学習……行かんでもいいわ…」
朝から体調が悪く、何度か保健室に来室しているAさん。熱はないものの、顔色が悪い。「明日、宿泊学習だし、帰る?でも、宿泊学習の話も今からあるみたいだけど、どうする?」と質問したところ、Aさんは、「宿泊学習、行かんでもいいわ…」と答えた。想像もしなかった答えに「え〜、行かんでいいが〜」と、言葉に詰まってしまった。

上記の内容を担任に伝えると、「Aさん、昨日の宿泊学習の事前学習に参加できなかったから、宿泊学習の見通しがもてずに不安でいっぱいなのではないかな」という答えが返ってきた。保健室で休んでいるAさんにそのことを尋ねてみると、大粒の涙を流しながら、うなずいた。
宿泊学習の事前学習では、荷物点検や儀式や歌の練習、活動の流れなど一通りの説明や練習を行っている。Aさんとの会話から、この事前学習が子どもたちの宿泊に対する不安を払拭することにつながっているということを改めて考えさせられた。しかし、宿泊学習では、あえて子どもが日常生活では出会わないような困難な課題やストレス場面を意図的に作り、自分の心の葛藤に悩んだり仲間と知恵を出し合いながら協力しあったりして、課題を解決していくことも大きな目的の一つであると考えている。
びわこ成蹊スポーツ大学講師黒澤毅先生は、「宿泊学習などでの不慣れな環境で課題に取り組むときに感じる不安(不適応状態)こそが、それを達成した時に力となり、次第に挑戦する心を生むための活力になる。そのことが、活動自体を楽しむ原動力となるのである。よって、子どもが課題に適応できない不安定な状態にいることは、大変重要な課題であり、この状態を指導者が解決してやるのではなく、子ども自身が打ち勝とうと前向きに努力する姿勢こそが、課題達成につながり、その結果として自己の能力を伸ばすことへとつながる」と述べている。
宿泊学習から帰ってきたとき、バスから降りてきた笑顔のAさんの顔がたくましく輝いて見えた。それは、人からもらったものではなく、自分の力で手に入れた「自信」がAさんを変えたのではないかと思った。

