米づくりの苦労


 むかし、前沢の村に、「も平」という若者がおったそうな。も平はつまの、おみえと、息子の たも作、娘の おけいの4人でくらしておったそうな。その時の村は、十二貫野用水から水を引いて田を作っていたが、それでも水はたりず、村人は、みんな水に苦労していたのである。
「今夜も田んぼに行ってくるわ。」
と言って、も平は家を出ようとした。
「また行ってくるがけ。」
と、つまのおみえが心配そうに言った。
「おらっちの田んぼが、からからになって、全めつしてしもうたら、どうしようもないからのう。」
と、も平は、今夜も田んぼに水を取るために出かけて行った。
 この夏は、特に暑い夏で、日でりがつづき、残っている水はこの川にしかなかった。それをみんなで分けるのだけれども、おそく来た者はとれなくなるので、みんな前の日の夜から出かけて来ていた。
「おう、も平も来たがか。」
「おう、太ろう平も いつもおらよりおそいくせに、今日はこんな早く来とったがか。」
「おらのおっかあに、もっと水をたくさんとるために、いつもよりはよう行くように言われたんじゃ。」
そう言って 村の若いしゅうとペチャクチャ話をしていると、向こうの方から
「水門があけられたぞー。」
と いう声がした。と同時に、ザーザーという音がして水が流れてきた。それで田んぼと川の間の木をはずした。みんなまんぞくそうな顔をしていたが、これからが大変なのだった。8月になると日でりつづきで雨は一滴もふらず、残された川の水も毎日少なくなるのだった。

 ある7月の暑い日の朝、も平が田を見回りに行こうとすると、も平の家のうらに住んでいる せい平が も平のところへ来て言うた。
「のう、も平。おらあ、北海道へ行こうと思っとるんじゃ。」
「ええっ。北海道へ。そりゃまた、どうしてじゃ。」
「なんでも、北海道は前沢とちごうて水もたくさんあるし、前沢よりも広い土地があるそうな。」
「ふうん。で、いつ行くつもりじゃ。」
「7月に行きたいのじゃが、いろいろ予定があるから8月の初めごろに行くつもりじゃ。どうじゃ、ついでじゃ。お前も北海道へいっしょに行かんか。」
「いいや、おりゃあ、この村で一生がんばるつもりじゃ。ざんねんじゃがお前と北海道へ行くつもりは にゃあで。」
そして、8月 せい平は 北海道へ行ってしまった。
 も平は つまと子どもたちに食わせるために、いつもせっせとはたらいていた。そして、今日もかれそうになっているいねに、水をやるために、小さな木の水門が開くのを待っていた。


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